商品開発は「ユーザーの経験全体」を取り扱う

「商品価値」という言葉をよく耳にします。しかし、価値というものは、商品そのものに属して存在しているのではありません。同じ商品でも、Aさんにとっての価値とBさんにとっての価値は同一ではありません。価値は評価する主体の側の心の中に立ち現れるものだからです。
さらに、ユーザーにとっての価値は、商品やサービスの発見、比較、試用から購入、使用、廃棄に至るまでのすべての顧客経験全体についての評価だということです。つまり、商品開発という工程で取り扱う設計要素が、格段に複雑で多様になってきたと考える必要があるのです。
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過去の物不足の時代や、解決すべき問題が明らかな課題については、それがモノであれ、サービスであれ、ソフトであれ、本質的な機能、あるいは中核となる便益(ベネフィット)とそれをパッケージに仕立てる付加機能や付加価値そのものに焦点を当てて開発プロセスを組み立てればよかった訳です。開発者がこれから開発設計すべきゴールを自分達の想像力の範囲でイメージすることが出来たし、それが大きく外れることもありませんでした。
しかし、現在では、ユーザーの評価、つまりユーザーの関心構造はもっと複雑になっていて、現実に商品の価値を評価判断している実態にあわなくなってきたということです。つまり、ユーザーは、その商品やサービスにまつわる経験の全てを、その商品の価値として評価判断しているんだということが顕著になってきました。さらに、ユーザーの生活文脈全体を捉えて、時間軸、空間軸、情報軸という切り口にも視野を広げて提案していく必要が出てきました。
言い換えれば、商品開発に必要な設計要素が、お客様の経験環境、購入プロセス全体に及んでいるということです。
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カスタマージャーニーや顧客の経験の旅という表現で紹介されている事例もありますが、ここでは、顧客経験の行程全体と顧客の評価関門と位置づけています。
最終的にお金を払って買っていただいて、良かったと喜んでいただく。さらにリピーターとか、誰かに口コミなんかで勧めていただくというのを最終ゴールと位置づけた時に、お客さんにならずに他所に逃げていってしまう分岐点という意味で、評価関門と読んでいます。それぞれの関門でお客様と自社の商品や情報が接するところを顧客接点(タッチポイント)と呼んでいます。どの接点、どの評価関門で何が起こっているのかということも、商品開発の段階でキチンと仮説構築し設計要件に組み込んでいかなければいけないということです。
この時に重要になってくるのが、顧客の心の動きであるメンタルモデルと、そもそもその顧客が誰であるのか、ということです。P.F.ドラッカーも『経営者に贈る5つの質問』で、「最も重要な5つの質問とは、われわれのミッションは何か、われわれの顧客は誰か、顧客にとっての価値は何か、われわれにとっての成果は何か、われわれの計画は何か、という5つの質問からなる経営ツールである」と述べています。
ミッションがあれば顧客が存在するはずです。顧客を満足させるためには、顧客にとっての価値を明らかにしなければなりません。そこで初めて達成すべき成果が明らかになります。そのための計画を具体化するのが商品開発といってもよいでしょう。
「5つの質問がもたらすものは、行動のための計画である。計画とは明日決定するものではない。決定することのできるのは、つねに今日である。明日のための目標は必要である。しかし問題は明日何をするかではない。明日成果を得るために、今日何をするかである」『経営者に贈る5つの質問』)(Text by 大藤 恭一)

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